米軍資料機密解除のプロセス

米軍資料に接するようになって,小さな地方都市の空襲に至るまで作戦任務報告が存在するのに,広島・長崎の原爆投下に作戦任務報告がないことに素朴な疑問をもっていた.1992年にふとした機会から,国防総省を通してこの原爆投下に関する作戦任務報告を見つけることができ,これを機会に,もう一つの「素朴な疑問」であった「機密解除の手続きに関するシステムと閲覧のルール」に関する質問をするため,アメリカ空軍マクスウェル基地の歴史資料室(AFHRA)宛てに手紙を出して質問してみた.その時に回答として「大統領命令11652(EO11652)」とその解説文(「空襲通信」第2号に全訳)が送られてきた.
 
 作戦任務報告の表紙には,しばしば,「TOP SECRET」や「SECRET」の機密指定を示す文字といっしょに,それらの文書が「大統領命令11652(EO11652)」によって機密解除されたことが記されている.「大統領命令11652」は,標題にもあるように,アメリカ政府あるいはアメリカ軍の機密文書をどのように指定し解除するかを定めた大統領命令である.
 
 EO11652は,その冒頭が「合衆国とその市民の利益は,政府の業務に関する情報が一般国民に容易に利用できるようにすることで,最も良く提供できる.一般市民に知らせるというこの考え方は,情報公開法の中に,また行政当局が情報を公共のものと見る現在の考え方の中に,反映されている.」という文章で始まる.少しわかりにくいが,要は「税金を使って行っている政府や軍の活動について納税者は知る権利を持っている」という極めて近代的な考え方である.
 
  EO11652はNixon大統領によって,1972年3月8日に発せられ,同年の6月1日に発効した大統領命令である.機密解除のプロセスについて,以下にEO11652からの抜粋を紹介する.
 
 (1)「Top Secret.」最初に「Top Secret」と指定された情報・資料は,それが最
初に指定されてから満2年を経過したのちに,自動的に「Secret」に格下げされ,
最初に指定されてから満4年を経過したのちには「Confidential」に格下げされる.
そして最初に指定されてから満10年を経過したのちには,機密を解除される.
                                    
 (2)「Secret.」最初に「Secret」と指定された情報・資料は,それが最初に指定
されてから満2年を経過したのちに「Confidential」に格下げされ,最初に指定さ
れてから満8年を経過したのちには,機密を解除される.          
                                    
 (3)「Confidential.」最初に「Confidential」と指定された機密情報・資料は,そ
れが最初に指定されてから満6年を経過したのちに,自動的に機密が解除される.
                                    
 (B)一般的機密解除予定からの免除.ある種の機密情報・資料は,一般的機密
解除の予定に与えられたよりも,長期にわたって機密を守ることが許される.最
初に情報・資料を「Top Secret」と指定するのに権限を有した官職は,彼または
彼の監督下に権限を行使した情報・資料が,以下に述べる範疇に入る場合には,
いかなる準位の機密情報・資料についても,一般的機密解除予定から免除され得
る.それぞれの場合に,これらの官職は,その資料に,主張される免除の範疇と,
そして不可能でなければ,自動的機密解除の日付け,または結果について書いて
詳述すべきである.免除の権限の使用は,国家機密の要求と一貫させながら,絶
対に最小限に留め,以下の範疇に限定すべきである:            
                                    
 (1)外国政府または国際組織によって提供された機密情報・資料であって,秘
密にしておくという条件で,合衆国が所有しているもの.          
                                    
 (2)機密情報・資料であって,特に法律で保護されているもの,あるいは,暗
号に関係するもの,あるいは情報の源や方法を暴露するもの.        
                                    
 (3)機密情報・資料であって,ある方式,計画,設備,事業,あるいは特別な
外国との関係を暴露するもので,それを保護し続けることが,国の安全保障にと
って重要であるもの.                          
                                    
 (4)機密情報・資料であって,その暴露が直ちにある個人の生命に危険を及ぼ
すもの.