5.松根油から航空機用ガソリンをつくるには
松根油抽出実験では,原料である松の根15kgから10kgの液体を得たが,各成分の比率は以下のようなものであった.
各成分 | 抽出量 | 比率 |
油 | 4520cc | 44.2% |
重質タール分 | 330cc | 3.2% |
水 | 5380cc | 52.6% |
松根油抽出の野外実験を通して,松の根に多くの油分があること,それは伐採後長い年月経過したものほど抽出率が高いことなどを私たちは理解することができた.海軍の見積もりでは,伐採後の経過年数の多いものほど収油率が高く,たとえば伐採後10年経過したものでは,収油率は20?30%だが,伐採後2年以内のものは10%たらずとされた.
それではこの松根油で飛行機を飛ばすことができるかというと,事はそう簡単ではない.これまで松根油と呼んできた松根釜から得られる液体は,正確には松根粗油と呼ばれるものである.私たちは抽出した松根粗油を出光石油興産にお願いして化学分析してもらった.それによれば,松根粗油はテルペン油と呼ばれる分子量の大きな油分が主成分を占めていた.
当時の航空機用エンジンの燃料とするためには,分子量の大きな炭化水素を分解して分子量の小さい軽質油にし,さらに水素を添加しオクタン価を高める必要があった.先に登場した藤井義人さんは,第三海軍燃料廠の図書館にあった敵国であるアメリカの文献から硫化モリブデンを触媒としてテルペン油を分解することを学び,実際に試験プラントでも精製に成功していた.松の根から航空機用ガソリンをつくるということは夢物語ではなく技術的にはまったく可能だったのである.
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